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吉永製作所

「身の回りの道具を身の回りの素材で作る」
長崎産ヒノキを使ったスタッキングスツール

吉永製作所のある長崎県長崎市出津(しつ)地区。ここは、眼前に五島灘が広がる長閑な集落です。日本中どこにでもある海沿いの田舎ともいえますが、その一方で、海と山の営みとキリスト教文化とが交じり合い、この場所特有の景観を醸成しています。19世紀にフランス人宣教師が指導した集落の礎となっている結晶片岩の石積みをはじめ、農具、民具、家具、教会とその関連施設の普請など、土地の素材を使って作られた痕跡や、手作りする営みが今も続いています。家具職人としてこの集落で起居し、素直でプリミティブな物作りの在り方に触れるうちに、この土地の木材を気負わずに使い、現代の日常生活に馴染む家具を作りたいと考えるようになりました。

風土 LOCATION

  • 近所の木材を使う

    工房から東北東へ15分ほど車で走ると、急峻な斜面にヒノキの森が広がっています。植生と戦後の林業施策から、長崎県西彼杵(にしそのぎ)半島では、スギよりもヒノキが多く育っています。山間部が海岸線に迫り、冬は北西の季節風に晒されることや、痩せた土壌などの厳しい自然環境から、ここで育つヒノキは成長が遅く赤みが強いのが特徴です。植栽から計画的に枝打ち・施業管理された丸太は、木目が通直で、製材すると緻密で美しい木肌が顕現します。製材された板材は、工房内で2~3年かけてじっくりと天然乾燥させます。
  • 吉永製作所のこと

    2015年夏、東出津(ひがししつ)町にあった旧縫製工場の建屋を借り受け、食堂椅子の製作を開始しました。基本的な木工機械を使い、木部から座面の縫製・張りまでを一貫製作してきました。当初は外国産の広葉樹を使っていましたが、風土に適った豊かな森林資源に囲まれながらも、輸入材ばかりで物を作る姿勢に、周辺社会との繋がりを分断しているのではないか?という違和感を抱き始めました。ここで育つヒノキを手掛かりに身を置く環境と接続したい。そこで、身の回りの道具を身の回りの素材で作ることを思い立ちました。
  • 暮らしの愉しみ

    工房から徒歩十分、出津漁港から程近い場所に建つ、築60年の空き家を譲り受けました。この家には、集落特有の平たい結晶片岩の石積みや、木・土・竹など、土地の素材が随所に使われています。大掛かりな改修はせず、掃除と、傷んだ箇所を修理・回復させて住み始めました。住みながら直し、使える物は使う。安易に便利な物は置かずに、自分たちが作った物を少しずつ加えています。物質的に少し足りないことが、自分たちの暮らし方と向き合うきっかけとなり、素直な物作りの種になると愉しんでいます。
  • 撮影協力:
    真樹フォレスト株式会社
    長崎南部森林組合西海製材所

    撮影:
    尾崎 翔

    ディレクション&デザイン:
    HORIdesign 堀 恭子